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福岡地方裁判所 昭和51年(行ウ)11号 判決

北九州市若松区浜町三丁目一二番二四号

原告

玉神汽船株式会社

右代表者代表取締役

清水剛

右訴訟代理人弁護士

元村和安

福岡市博多区博多駅東一一番一号

被告

福岡国税局長

安田裕之

北九州市若松区白山一丁目二番三号

被告

若松税務署長

徳永秀哉

被告ら指定代理人

中野昌治

西沢博明

江崎博幸

大神哲成

米倉実

中島享

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(主位的請求)

被告若松税務署長が昭和五〇年六月三〇日付でなした原告の昭和四八年四月一日から昭和四九年三月三一日までの事業年度分の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

(予備的請求)

1 被告福岡国税局長が昭和四九年八月一日付でなした原告の船舶(台船)の耐用年数の短縮承認申請の却下処分を取り消す。

2 主位的請求と同旨

3 訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁(被告ら)

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

(主位的請求)

1 原告は昭和四八年四月一日から昭和四九年三月三一日までの事業年度分の法人税につき所得金額二五二万三、一九八円、納付税額三九万七、一〇〇円として確定申告したところ、被告若松税務署長は昭和五〇年六月三〇日付で所得金額三九四万四、一七七円、納付税額八七万七、五〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税額二万四、〇〇〇円の賦課決定をなした。

2 右更正処分及び過少申告加算税賦課処分の理由とするところは、原告がその資産である船舶(台船)東伸丸の耐用年数を七年として減価償却費を算定したのに対し、右の耐用年数は一二年とすべきものというにある。

3 しかしながら、右船舶(以下本件台船という。)は、法人税法三一条に基づく減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表第一の種類・船舶、構造又は用途・その他のもの鋼船、細目・しゆんせつ船及び砂利採取船に該当し、その法定耐用年数は七年であるから、これを一二年として所得金額等を算定してなされた本件更正処分及び過少申告加算税賦課決定は違法である。

なお、右の点を除くのほか、原告は被告若松税務署長のなした所得額、税額の認定、計算を争うものではない。

4 原告は本件更正処分等を不服として昭和五〇年八月一日国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、同審判所長は昭和五一年三月三一日棄却の裁決をなした。

よつて、主位的請求の趣旨のとおりの判決を求める。

(予備的請求)

5 原告は昭和四九年四月四日被告福岡国税局長に対し本件台船の耐用年数を七年に短縮することの承認を申請したところ、同被告は昭和四九年八月一日付で右申請を却下した。

6 しかしながら、仮に本件台船の法定耐用年数が一二年であるとすれば、右耐用年数は七年に短縮することを承認されるのが至当であつて、右却下処分は違法である。

7 原告は右却下処分を不服として昭和四九年九月一九日国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、同審判所長は昭和五一年三月二三日棄却の裁決をなした。

8 仮に、本件台船の法定耐用年数が一二年であり、かつ、これを七年に短縮すべき相当の根拠がないとしても、被告らのなした本件各処分は次の理由により違法である。即ち

被告らは、従来、本件台船と同様の構造及び用途を有する船舶の耐用年数を七年として課税する旨表明し、その趣旨の行政指導をして来た。その一端を示すと、訴外日の宮海運株式会社は昭和四三年一〇月建造の「日の宮丸」の耐用年数の取扱いを教示されたい旨被告若松税務署係官に申し出たところ、一応大蔵大臣あてに耐用年数の短縮願いを提出してみてはどうかということであつたので、その旨の願書を提出したところ、その後被告若松税務署において右願書の取下げを勧め、右耐用年数は本来七年とすべき旨教示した。また、訴外株式会社近藤海事の「海神丸」(昭和四五年四月建造)及び「あさひ丸」(同年九月建造)についても、被告若松税務署は、その耐用年数が七年である旨右訴外会社に教示した。かように、本件台船の建造(昭和四七年着工)当時、被告若松税務署は、本件船舶の如き台船については耐用年数短縮申請をするまでもなくこれを七年として取り扱う旨の行政指導をしていたもので、このことは海運業者間においては公知の事実であつた。

原告は、右の行政指導を信じ、耐用年数が七年であれば十分採算がとれると考えて本件台船を建造したものである。もし仮に、耐用年数一二年とするならば、原告は、国の機関たる被告らの誤つた指導を信じたがために課税上不満の不利益を受けることになるが、かような場合には、信義誠実の原則に照らし、行政庁は、たとえそれが一般に適法な処分と考えられるものであつても、自己の従前の言動に反する処分をなすことは許されないと解すべきである。

よつて、予備的請求の趣旨第1、2項のとおりの判決を求める。

二  請求原因に対する認否(被告ら)

1  請求原因1、2、4、5、7各項記載の事実は認める。

2  同3、6各項の原告主張は争う。

3  同8項について

被告らが「台船」については短縮承認申請をする必要がなく、当然耐用年数を七年として課税する旨の行政指導をなしていたとの主張は否認し、右事実は海運業者間において公知の事実であつたとの主張は争う。

日の宮海運株式会社なるものは存在せず、有限会社日の宮海運商会(昭和四五年七月設立、それ以前は個人企業)の誤りではないかと思われる。また、右日の宮海運商会が短縮承認を申請してきたのは同社所有の第二日の宮丸(昭和四五年一一月建造)であつて、「日の宮丸」については短縮承認の提出を受けていない。第二日の宮丸について短縮承認の取り下げをしたことは認めるが、勧告したことについては不知。

被告税務署係官が「本来七年とすべきであると教示した」ことは否認する。

昭和四五年四月建造の「海神丸」、同年九月建造の「あさひ丸」が株式会社近藤海事工業所の所有であることは認めるが、「被告税務署はその耐用年数が七年である旨を教示した」との点は否認する。

その余の原告主張は、すべて争う。

三  被告らの主張

1  本件更正処分等について

法人税法の規定する減価償却は、減価償却資産の取得価額(又は製作価額)等を基礎として法人が選定した方法により、法定耐用年数(減価償却資産の耐用年数等に関する省令、昭和四〇年三月三一日大蔵省令一五号)に応じて計算した償却限度額に達するまでの金額で、法人がその確定決算において、損金に経理した金額をその限度として損金に算入するものである(法人税法三二条)。

原告は、本件確定申告において、減価償却費を一、八七三万四、四二六円と計上したが、被告税務署長は、原告所有の本件台船(東伸丸)の減価償却費の計算に際し、その耐用年数は、その構造及び用途からみて減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表第一の「船舶」の「その他のもの」「鋼船」の「その他のもの」(耐用年数一二年)に該当するものとして計算したところ、減価償却費は一、七三一万三、四三八円となつたので、償却超過額一四二万〇、九八八円を否認し、本件更正処分をなすとともに、国税通則法六五条一項に則り過少申告加算税を賦課決定したものであり、右各処分には何ら違法の点はない。

2  台船の耐用年数とその短縮承認申請について

(一) 減価償却資産の耐用年数は、原則として、我国企業設備の一般的現況を前提とし、通常考えられる維持、補修を加える場合において、その減価償却資産の本来の用途、用法により通常予定される効果をあげることができる年数、すなわち、通常の効用特続年数によつている。

従つて、個々の減価償却資産に耐用年数の算定の前提とされている諸条件と異なる事情がある場合には、その実際の耐用年数と制度上の耐用年数とが異なる結果になる。

(二) そこで、その相違が著しい場合には、実際の耐用年数と制度的に定められた耐用年数との調整の必要が生じてくる。このための制度が短縮承認の制度である。法人税法施行令(以下「令」と略す)五七条一項は、短縮ができる特別の事由として、次の六つの場合をあげている。

ア 材質又は製作方法が種類および構造を同じくする他の減価償却資産の通常の材質又は製作方法と著しく異なること。

イ その減価償却資産の存する地盤が隆起し又は、沈下したことにより、その使用可能期間が著しく短いこと。

ウ その減価償却資産が陳腐化したことにより、その使用可能期間が著しく短いこと。

エ その減価償却資産が使用される場所に基因して著しく腐しよくしたこと。

オ その減価償却資産が通常の修理又は手入れをしなかつたことに基因し著しく損耗したこと。

カ その他の事由で大蔵省令で定めるものによること(法人税法施行規則一六条参照)。

これら特別の事由としてあげられているものの要点は、いずれも、そのために使用可能期間が、決定耐用年数に比し著しく短いことをあげていることである。

(三) そこで、原告の本件短縮承認申請の理由が右のいずれかに該当するか否かを検討してみるに、原処分の段階における短縮申請の理由は次のようなものであつた。

ア 法定耐用年数が一二年である船舶法の適用を受ける船舶は、一五ミリメートル程度の鋼材を使用しているのに対し、船舶法の適用を受けない台船は、甲板及び外板が八ミリメートル、船底が九ミリメートルの鋼材を使用しているから、船舶法の適用を受ける船舶と同一の耐用年数を適用するのは不適当である。

そして、原告は、審査請求の段階においては次の四つの理由を加えてきた。

イ 船舶法の適用を受ける船舶が二〇年以上使用されていても一二年の耐用年数とするならば、一二年以上使用されている台船についても、法定耐用年数は実際より短く定められるべきである。

ウ 海運局が認定した船舶検査証の有効期間が六年であることから、海運局でもその程度の耐用年数を相当とみている。

エ 船体部分の構造が類似する船舶法の適用を受けないしゆんせつ船の法定耐用年数は七年であるからこれと同一年数を承認すべきである。

オ 台船については、船舶法に定める定期検査がないので通常の補修を行わないから、船舶法適用船の耐用年数より短く承認されるべきである。

(四) これらの理由が、令五七条一項各号のいずれに該当するのか全く不明であつた。

従つて、この点からみても原告の申請は理由がないものであつたが、右各理由は次のような点からも失当であつた。

ア 台船は、通常の船舶と構造上異なるが、台船の船体内には機関等の設置がなく、構造も簡単で、機関等の設置によつて派生する腐食部分等がなく手入れも比較的容易であること等から、使用鋼板が薄い場合でも通常の補修管理を行うことによつて通常の船舶と比較して使用可能期間にそん色はない。

イ 令五七条一項の短縮承認を受けるには、同項各号のいずれかに該当し、当該資産の使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短いことが要件であるから、法定耐用年数より長く使用されている船舶の事例をもつて当該台船の耐用年数につき実際の使用可能期間より短く当該台船の耐用年数を承認すべきであるとする主張は、耐用年数の短縮承認の理由とならないことは明らかである。

ウ 海運局が認定した船舶検査書の有効期間は、船舶検査書の有効期間を定めただけのものであつて、六年を超えると使用できなくなるといつた性格のものではない。

エ しゆんせつ船の場合は、しゆんせつ機械等の価額がしゆんせつ船全体の価額のうえで相当の割合を占めているので、しゆんせつ機械等の耐用年数がそのしゆんせつ船の耐用年数に大きく影響せざるをえない。従つて機関、しゆんせつ機械等を全く積載していない台船の耐用年数につき、しゆんせつ船の事例は全く参考にならない。

オ 台船に定期検査がなく、そのため補修しないことが多いとしても、そのことをもつて、本件台船の耐用年数を短縮しなければならない理由とはならないはずである。蓋し、令五七条一項四号・五号からみて本件台船につき補修しないため、他の台船に比較して著しく損耗した段階で短縮承認の申請をすればよいからである。それに、本件台船は、原告が昭和四九年一月に新造取得したものであり、取得時から申請時まで使用期間が短いところから使用による損耗はごくわずかであつた。

以上によつて、原告の本件耐用年数短縮申請が全く理由のないものであることは明らかである。

(五) 因みに、船舶の法定耐用年数の根基となつている船舶鋼板の減耗は、一年間の物理的減耗〇・〇六ミリメートルに安全度として一〇〇%(〇・〇六ミリメートル)を加算し、年間減耗を〇・一二ミリメートルとして算定している。

この方法を本件台船に適用してみると、本件の場合は、洞海湾の海水汚濁等を考慮して、安全度として一五〇%(〇・〇九ミリメートル)を物理的減耗に加算して、年間減耗を〇・一五ミリメートルとし、船舶の外板の許容厚については、船体の長さ等によつて多少差はあるが、航海の安全度及び日本海事協会の衰耗限度を考慮して、外板の減粍度を三〇%(外板一〇ミリメートル以下の場合)として実際の使用可能期間を算定すると、当該台船の使用可能年数は、外板(鋼板)は八ミリメートル(台船の場合通常七ミリメートルから九ミリメートル)を使用しているので一六年{(八ミリメートル×三〇%)÷〇・一五ミリメートル}となる。

従つて、この点からみても被告国税局長が法人税法施行令五七条一項各号の規定に該当しないとして却下処分したことは適法である。

3  信義則違反の主張について

原告の主張する、台船の耐用年数は七年として課税する旨の被告らの行政指導なるものの内容は事実に反するものであるが、右原告の主張自体からしても、何ら租税法における信義則の適用を基礎づけるものではないことは明白である。

けだし、租税法の領域においては信義則なるものの適用があるかどうかは大いに争いのあるところであるが、これを肯定する学説判例も、合法性の原則を犠牲にしてもなお信頼を保護することが必要であると認められる例外的な場合であることを必要とし、その要件の第一として、「租税行政庁が納税者に対して信頼の対象となる公の見解を表示したこと」を挙げているのに対し、原告の主張するところは、右の「公の見解」を基礎づける一定の責任ある立場の者の正式の見解の表示(例えば照会に対する回答、通知等)についての具体的な事実の主張が何らなされていない。なお、この関係で注意を要するのは、学説、判例とも、調査担当職員の申告指導や、申告是認通知は、税務署長によつてなされる正式の通知ではあるが、原則として信頼の対象となる公の見解の表示には当たらないと解していることである。

加えて、原告の主張によれば、課税庁の教示は原告自身に対してなされたのではなく、他の納税者に対してなされたものであるから、何ら直接の教示を受けたものではない原告が、信義則の適用を受ける謂れはないはずである。

けだし、通達のように納税者一般に対して課税庁の見解が表示されたのなら格別、単に個別的に教示がなされた場合には、信頼関係が生ずるのは、直接当該教示を受けた納税者と課税庁との間であつて、当該教示を受けない者との間には何ら保護に値するような信頼関係は生じる余地はないからである。有力な学説も、租税法律関係においては課税の公平が租税法律主義と並ぶ大原則であることから、このような場合に平等原則を適用することを否定している。

このようにみてくるならば、原告の主張はそれ自体失当であることは明らかである。

もつとも、北九州の海運業者の間においては、従来、台船の法定耐用年数について、これを法定耐用年数表別表一の種類・船舶、構造又は用途・その他のもの鋼船の中の細目しゆんせつ船及び砂利採取船(耐用年数七年)、あるいは、構造又は用途・その他のもの中のその他のもの、細目その他のもの(耐用年数五年)として申告するものがあつたことは事実である。

しかしながら、法人税の申告書には、各個別の船舶の償却額を記入する必要はなく、船舶の総償却額だけを記入すればよいため(法人税法施行令六三条二項)、課税庁の側としては、これら申告の誤りに気がついていない模様であつたが、昭和四九年二月被告税務署がY海運株式会社を実地調査したところ、同社の台船について耐用年数の適用の誤りを発見した。

そこで、同業種法人についても調査したところ、類似の誤りがあることが判明したため、同年三月二日、被告税務署会議室において、関係業者(当時、九州海運局若松支局の台船保有者名簿に登載されていたもの)に出席をもとめたうえ、台船の減価償却に関しては耐用年数は一二年である旨の集合指導を行なつた。但し、被告に対しては、当時右台船保有者名簿に登載されていなかつたため、指導は行なつていない。

その後、関係業者は、右指導を受け入れ、修正申告等の是正措置をとつた。

しかしながら、原告のみは、関係業者の全部について指導がなかつたこと、従つて原告については既得権の侵害となること、現実の問題として、耐用年数を一二年とされると原告の事業経営ができないこと等を理由として、被告税務署に善処方を強硬に申し入れていた。

そこで、被告税務署の係官は、耐用年数一二年が原告の台船の実情に合わないのであれば、耐用年数の短縮承認の方法がある旨を説明したところ、原告は、同年四月四日、右短縮承認の申請をなすに及んだものである。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおり。

理由

(被告若松税務署長に対する請求について)

一  請求原因1、2項の事実は当事者間に争いがない。

二  先ず、本件台船の法定耐用年数について案ずるに、いずれも成立に争いのない甲第一号証、同第二号証の一ないし一四、同第三号証(ただし、図面の部分のみ)、原告代表者清水剛本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、本件台船は船舶法四条から一九条までの適用を受けない鋼製の船舶で、鉄柱の枠に鋼板を張つたマッチ箱様の形状をなし、甲板上は平らで構造物を有さず、動力機関の備え付けもなく(したがつて、通常乗員を必要としない。)、その用途は、一般の船舶に搭載しにくい積荷を乗せて曳航し、あるいは、しゆんせつ船等に繋留して甲板上を作業用資材置場に利用するものであることが認められるところ、減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和四〇年大蔵省令一五号)別表第一によれば、船舶法四条から一九条までの適用を受けない鋼船の耐用年数は、「しゆんせつ船及び砂利採取船」が七年、「発電船及びとう載漁船」が八年、「ひき船」が一〇年、「その他のもの」が一二年と定められており、右の分類からするならば、本件台船は「その他のもの」に該当することが明らかというべきである。

右のとおり、本件台船の決定耐用年数は一二年であつて、これを七年であるとする原告の主張は理由がない。

三  次に、原告は、被告は従前原告ら海運業者に対し台船の耐用年数は七年である旨の行政指導をして来たから、これを信じて本件台船を建造した原告に対しその耐用年数を一二年として課税することは信義則に反し違法である旨主張するので案ずるに、証人赤星渡、同谷静雄、同竹内治美の各証言、原告代表者本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、本件台船と同様の構造、用途を有する台船(デツキバージとも呼ばれる。)は、若松地方においては昭和四〇年頃から造られ始め、昭和四七、八年頃急に増えたものであるが、これを所有する海運業者が法人税を申告するに当たり台船の減価償却費を損金に計上するに際しては、その耐用年数を七年として計算することが多く、昭和四三年頃一部の業者が若松税務署の職員から右の取扱いでよい旨の誤つた示唆を受けたこともあつて、台船の耐用年数は七年である旨の認識が若松地方の海運業者間に一般化していたこと、被告は昭和四九年始め頃このことに気付いたので、主だつた海運業者に対し今後は右耐用年数を一二年として税務申告をするよう指導につとめたが、容易に納得が得られず、不信、不満を強く表明する業者もあつたこと、本件台船は昭和四八年五月頃発注され、昭和四九年一月頃完成したものであるが、原告も他の海運業者と同様に、同年五月頃被告所部職員から指導を受けるまでは台船の耐用年数は七年であると考えていたことが認められ(ただし、原告代表者本人尋問の結果中、原告代表者自身が本件台船の建造に先だち若松税務署に赴き台船の耐用年数を訊ねたのに対し七年であるとの回答を得たとの趣旨の部分は、その供述自体具体性に乏しく、成立に争いのない乙第三号証をも斟酌すると、右供述部分はたやすく措信できない。)、右認定を左右するに足る証拠はない。

以上の各事実によれば、本件台船の耐用年数を一二年としてその減価償却費を計算することは、原告が当初予想していたところに比して課税上不利益となることは確かであり、かつ、かような結果となつたのについては、行政指導によろしきを得なかつた被告課税庁の側にも責められるべき点があつたことを否定できないと考えられる。

しかしながら、およそ租税の負担は法律の定めるところに従つて課されるべきであり、課税の公平を確保するために法適合性が強く要請されるところであつて、原告主張のように、信義則に照らして、右の適法性の要請に優先してまで納税者の利益保護を図るのが相当とされるのは、正義、衡平の見地から真にやむをえないと認むべき事由がある場合に限られると解すべきである。

右の観点から本件をみるに、前認定の各事実からすれば、原告が本件台船の耐用年数を七年と考えたことをもつて軽々に法の不知とのみなしえない事情があつたことは否めないものの、これを法規の定めるとおり一二年として課税することが信義誠実の原則に反し違法であるといえるほどの事由があつたとは到底考えられない。

よつて、前記原告の主張は採用できない。

四  以上によれば、原告が本件台船の耐用年数を七年として算定した減価償却費のうち、これを一二年とした場合の償却限度額を超える額の損金計上を否認してなされた本件更正処分及びこれに伴う過少申告加算税賦課処分には原告主張のような違法はなく、かつ、被告主張にかかる右償却限度額及び税額の算定については、原告はこれを争わないのであるから、本件更正処分及び賦課処分はいずれも適法と認むべきである。

(被告福岡国税局長に対する請求について)

一  請求原因5項の事実は当事者間に争いがない。

二  原告は、本件台船の耐用年数は七年に短縮されるのが相当であると主張するのみで、その具体的な理由については何ら主張しないが、成立に争いのない乙第二号証によれば、原告が右短縮を承認すべきものとする根拠は被告国税局長が述べるとおりである(事実欄第二、三、2、(三)アないしオ)ものと窺われる。

しかしながら、右の諸点についての被告国税局長の反論(同(四)アないしオ)は十分に首肯しうるところであつて、前記(三)アないしオの各事由は、減価償却資産の耐用年数の短縮が承認される場合を定めた法人税法施行令五七条一項一号から六号までの各事由のいずれにも該らないというべきである。ただ、原告代表者本人尋問の結果中に、台船は素人が設計して発注するもので、作り方により堅牢度が区々である旨の部分が存するので、本件台船が一般の台船の通常の材質又は製作方法と著しく異なるためその使用可能期間が著しく短いものであるとすれば、同施行令五七条一項一号に該当することも考えられるけれども、本件全証拠によるも、本件台船が右に述べたようなものであることを認めることはできない。

してみると、被告国税局長のなした本件申請却下処分に違法の点はなく、適法というべきであるから、右処分の取消しを求める原告の請求は理由がない。

(結論)

以上のとおり、原告の被告らに対する本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却し、訴訟費用は原告の負担として、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 南新吾 裁判官 小川良昭 裁判官 河村吉晃)

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